この世のもの

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Juice=Juice ベストセレクションアルバム「Juicetory」の感想

発売時に書こうと思っていたのに随分遅くなってしまった。

Juice=Juice10周年記念のアルバム。先に発表されていたツアータイトルと同タイトル、というかこちらのタイトルが先に決まっていたのだろう。「Juice」と「Story」の合成かと考えるのが普通だろうと思うが、読みがジューストリーだと知った時には「Factory」との組合せではないかと妄想した。井上さんがいるし、セットリストにこぶし曲が入ったりするのではないかと。その妄想は25周年記念コンサートでの「念には念」という形で実現していたが、ともあれ実際のところは「History」との造語ということだった。言われたらそうかという感じだ。

収録曲がメンバーではなくスタッフ側によって選ばれたというのはいくつかの媒体で触れられていた。特に明確な基準があって選ばれているようでもないが、コンサートでセットリストに入ることの多い曲が中心で、アルバム曲、カバー曲もシングル曲と同列に扱われて入っている。ファン投票が実施されたとしても選曲はまた異なりそうで、実際10周年記念の楽曲大賞での13位までと比較すると一致率は4割くらいだった。今回のアルバムは新録であるので、それに意味があることや、5人+6人のユニット曲に合うと言う点、意外性を狙ったところなどもあるかもしれない。

単なるベストではなく新録だったのも良かった。モーニング娘。の先日のベストもそうだが、ちょうど巡り合わせたタイミングという意味以上のメンバーではないけれども、更新していくことに意味があると思う。オリジナルメンバーが1人だけ残っているのも継続性が感じられて良かったのではないだろうか。

レコーディングは通常の楽曲と異なり、それぞれが自分のパートを録音したらしい。普通は全部録ってから歌割が決まるのだが、今回はすでにライブで披露しているバージョンがベースになっていたのだと思う。段原さんなどは新曲以外のレコーディングが2時間で終わったという。速い。そのテンポ感は井上さんのレコーディング映像でも伝わってくる。川嶋さんだけは別で、全曲を全コーラス録ったようで、これがJuice=Juiceでの初レコーディングだった。歌割の変更があるとしたら他のメンバーのところが川嶋さんに変わる訳で、その点ではメンバーもたいせいさんに脅されていたみたいだ。先ほどタイミングと書いたがまさにタイミングが悪かったなと思うのがさくりんごの2人で、現状のライブバージョンでは(しかも新録するようなある程度古い曲では)まだまだ2人のパートは少なくて、そこだけをレコーディングしたのでは増えようがないからだ。

曲順はシンプルに原曲の発売順だったのだが、繋がりが悪いと感じるところは特になく、ユニット曲も続きになっていてまとまりが良かった。

 

1.ロマンスの途中(2023 10th Juice Ver.)

編曲は原曲と同じ鈴木俊介さんで、10年前に実現できなかった元々のイメージだったり10年間での作風の変化だったりが反映されているんだと思う。元々はベース(笹本安詞さん)とギターのみが生楽器だったと思うのだが、今回はほとんどの音が生になっていて一聴してリッチな印象がある。ホーンセクションが肝なのはもちろんのことだが、特に印象が変わっている要素が打ち込みのビートがドラムになっているところで、ボーカルと重なることでバンドっぽさが増している。あとはエレクトリックピアノも加わっているのでよりお洒落にもなっている。つんくプロデュースではなくなってからハロー!全体で一時生楽器のレコーディングが増加していたものの、最近はそうでもなかったところでこの新録だったので嬉しかった。

この曲は2016年に「FULL CHORUS~音楽は、フルコーラス~ in 日本武道館」というコンサートでバンドアレンジで演奏されていて、その時も司会のハマ・オカモトさんがベースを弾いていた。この公演の体験はメンバーも本当に楽しかったみたいで、高木さんとかはその後もバンドライブをやりたいと再三言っていた、実現しなかったけれども。ちなみにこのコンサートで披露したのは2曲で、もう一曲は「Wonderful World」と「10th Juice Ver.」が作られたのと同じ組み合わせだったのが面白い。今回のベースアレンジはその時のものよりは笹本さんのものに近い印象がある。レコーディングの様子はMVとアプカミで見られる。MVではホーンセクションの方々は格好良く演奏風景を撮影し直しているのだが他はレコーディング映像の色調を変えたくらいで、ちょっと落差がある。


歌割は正確にどのタイミングかわからないが、ともあれ最近は2番で3flowerが増量している。音源では工藤さん(オリジナルは高木さん)のパートが1箇所川嶋さんに変わっている。今はお休みなのでコンサートでは入江さんが続けて歌っているけれども。

2.私が言う前に抱きしめなきゃね(2023)

最近めっきり聴かない「MEMORIAL EDIT」の方ではなくてオリジナルの方が元になっている。久しぶりに元の音源を聴いたら歌いはじめが大塚さんでうろたえた。彼女自身はメジャーデビューしていないが、メジャーから出たファーストアルバムにしっかり声が残っている(クレジットはされていない)。この段階なので上手い下手はともかく、引っ掛かりのあるいい声だ、と今聴くと思う。

声の厚みが全然違う。サビも5−6に分かれているので3−3のオリジナルとはそもそも人数が違うし、個々の声の厚みも経験と年齢の差が出ている。有澤さんが、なんとなくだが当時のJuice=Juiceに一番近い歌い方に思える。過剰にひっかかる感じか。入江さんもちょっとだけ初期金澤さん風味がある。松永さんの声と歌い方はクールハローって感じでこちらもやはり初期Juice=Juice曲に合っている。

3.イジワルしないで 抱きしめてよ(2023)

ハロプロ36房」で南波さんが触れていた「情熱のメガン」問題。植村さんの話を総合すると当時はそう発音するように指示されていた、佳林さんはオリジナルでそれをしっかり実践しているけれども、今回はそこまで指示がされていなかったので個々の歌唱が割と「女神」に聞こえる形になったということだろうか。植村さんも結構普通に「女神」と言っているように聴こえる。

松永さんの「私はローズクォーツ」が音源化されたのが嬉しい。同じ歌詞を同じ人がひたすら歌うというのはJuice=Juiceではつんく曲にしかない特徴だし、金澤さんから受け継いだものが形になって良かった。宮本さんが占有していた「お願い」は今は分かれていて、二つ目が井上さんから川嶋さんになっていた。なんか遠くから呼びかけられているような声だ。井上さんの「愛と美の時間」、歌い方は佳林さん風味なのだが声が全然違うので面白いパートになっている。

4.初めてを経験中(2023)

歴の浅い組。それぞれのメンバーがプランを立ててレコーディングに臨んでいる感じがJuice=Juiceっぽいと言えるかもしれない。この曲全体の、セリフと歌の中間みたいな歌唱に江端さんの声が思った以上に合っていた。

そして、石山さんと遠藤さんのソロパートはほぼこの曲でしか聴けないので非常にありがたい楽曲だ。最後の遠藤さんの「好きだよ」と石山さんの「ズルい」はどちらも最高だった。

5.ブラックバタフライ(2023)

この曲はいつの時代もあんまりコンサートにかからなかった曲で、もちろん盛り上がるような曲でもないので今回の企画版に入ったのは意外だった。でもフルメンバーだと蝶が2頭できてしまうし、まあ普通に多すぎるので、5人ユニット曲としては納得だ。

工藤さんの歌唱がしっとりと落ち着いていて心地よい。こんな歌い方できたのか。原曲では、最後に佳林さんの力強い「ブラックバタフライ」というパートが異常な音量で入るのがあるのだが、恐る恐る聴くと普通に全員のユニゾンで安心した。

6.Wonderful World(2023 10th Juice Ver.)

こちらも「10th-Juice Ver.」で、トラックもアレンジも変わっている。編曲者もミュージシャンも変わっていたり、バイオリンが生になっていたりするが、全体的な雰囲気はあんまり変わらない。オリジナルの編曲者gaokalabはイイジマケンさんと炭竃智弘さんとが一緒にやっていた会社らしい。今回炭竈さん単体の編曲だった。

冒頭に合唱が加わっていて、コンサートで見るとコーラス音源もハモっているし、メンバーも生でパート分けをしているのが分かる。割とうまくいっているときとそうでもない時がありそうなので、今後また精度が上がっていくと思う。このあたりは人数が増えたことをうまく活かしている。オリジナルの5人の迫力も素晴らしいが。

この曲の最近の注目ポイントは佳林さんの歌割を江端さんが受け継いだところなのだが、そこが川嶋さんとのパートになっている。2人の声の組み合わせは非常に美しいのだが、生で見る機会がなかなか得られていない。気長に待つしかない。

この曲には英語バージョンの歌詞もあるので、10th-Juice English Ver.も聴いてみたい。

7.CHOICE & CHANCE(2023)

ボーカルのみ新録の曲の中で、この曲だけはオリジナルより少し長くなっている。井上さんのボイパに合わせて編曲がなされていたことに今更気づいた。

「グッバイ」のもとの金澤さんの音源は意外にあっさりしていて、本人が濃くしたり梁川さんが頑張ったりまた金澤さんがやったりしていたが、今は松永さんが軽やかに決めている。

発売当時は珍しかった、宮崎さんと植村さんの歌い上げる感じのソロパートがあったのだが、そこは宮崎さん卒業後あたりからユニゾンになっている。またソロに戻して歴の浅いメンバーに任せてみたりしたら面白そう。

8.Magic of Love(2023)

冒頭の「We Are Juice=Juice!」の声が5人から11人に増えたのがこのアルバムで一番人数の変化を感じる場面だった。

元々は「ロマンスの途中」などの楽曲同様メインの3人がほとんど歌っている曲だったのだが、歌割が細かくなって3flowerまでは結構広く行き渡っている。段原さんが高木さんのパートを多く担当しているほか、井上さんが佳林さんと金澤さんのパートを担当しているところが多い。松永さんも結構大事なところを任されている。

段原さんは高木さん脱退後しばらくはかなり苦労していたようだったが、かなり歌いこなすようになってからのレコーディングで良かったと思う。それにしても5人時代のユニゾンの完成度、厚みというものを改めて感じさせる楽曲だ。

9.カラダだけが大人になったんじゃない(2023)

植村さんにもともと印象的な歌割がある楽曲で、今回の新録で植村さんの変化がよく分かる。段原さんと井上さんを含む3人の力強さがこの曲をグレードアップしている。

代表曲というほどではないので、今回のアルバムに入ったのは結構意外だったのだが、曲調とか歌詞が今のJuice=Juiceにあっていると思う。「負けないよ」の井上さんとか素晴らしい仕上がりで、楽曲全体としても個人的にはオリジナルより好きだ。

10.Never Never Surrender(2023)

ここから先は新メンバー加入が始まって以降なので、元々の歌割があんまり固定されないまま変化しやすい。最近も多くパフォーマンスしているので違和感が少ないというか、オリジナルと聞き比べてもそんなに印象が変わらない。終盤の有澤さんのシャウトは公演ごとにアレンジが加わって進化しているので、その状態の録音が残ってよかった。

植村さんの「お気に召すまま」の進化、迫力もすごいが、今のコンサートではさらにアドリブを加えたりしている。

11.微炭酸(2023)

MVやフォーメーションでは佳林さんと稲場さんの印象の強いこの曲だが、ソロパートにしろ2人のユニゾンにしろ、稲場さん加入から梁川さん卒業までのこの時期の8人の良さが詰まった曲だと思う。

この時期からしたらだいぶメンバーも入れ替わったが、単に歌割を入れ替えただけでなく、Aメロからサビまで色々なところで、ソロパートがユニゾンになったりその逆があったりして、その細かい調整が興味深い。個人的には「ねえこんな私をつまらなく思うでしょ?」のところが好きで、宮崎→金澤/梁川→段原と引き継がれていたのも熱いのだが、今回は工藤さん/江端さんへの流れだった。江端さんの少しざらつきを含んだ声がこういった切ない曲に合っていて、実際3flowerの中では一番目立っている。

12.「ひとりで生きられそう」って それってねえ、褒めているの?(2023)

この曲は宮崎さんの卒業と、工藤さんと松永さんの加入を挟んで2バージョンがリリースされていて、ゆめりあい入りの「New Vocal Ver.」の方が今披露されているもののベースになっている。今回の録音も今のライブでの歌割そのままで、一箇所だけ工藤さんから川嶋さんに変わっている。
改めてオリジナルを聴くと、最初の歌割の完成度というか、製作陣の選択の的確さに敬服する。当たり前だがMVはオリジナルであって、人口に膾炙(言い過ぎか)したのはこのバージョンだ。この形での歌唱はかなり機会が少なかったが、宮崎さんの卒業コンサート映像で聴ける。
現在は段原さんがこの楽曲のイメージを作り上げていると言えるだろうか。加入直後の「New Vocal Ver.」で落ちサビに抜擢された松永さんも欠かせない要素になっている。

13.ポップミュージック(2023)

ライブでやると、いないはずの佳林さんや高木さんの声が亡霊のように間奏で聴こえることになかなか慣れなかったのだが、まあ最近はこれも歴史の厚みかなと思っている。今回新録ということでついにそれも最新メンバーのものになるのか!と思って聴いたら、コーラスはそのままだった。あえて残したのかもしれないし、そこまでレコーディングする余裕がないだけかもしれない。

オリジナルメンバーのねちっこい歌唱を井上さんや工藤さんがしっかり引き継いでいる。聴いた時のイメージは大きく変わらない。原曲でそれほど歌割がないものの、その後体制が変化する中でもコンサートなどでこの楽曲を歌う際には一番の気合いと輝きを見せ続けていた工藤さんの存在が大きいかもしれない。

14.ボン・ヴォヤージュ~想いの軌跡~

この曲は純粋な新曲で、最近のJuice=Juiceやつばきファクトリーでも馴染みのある作曲陣だ。先に聴いたのがコンサートなので、パフォーマンス(およびスクリーンの演出)の印象が強い。最近YouTubeでも映像が出たが、川嶋さんの参加したバージョンはアルバム音源でしか今のところ聴けない。今のJuice=Juiceの実力と魅力が詰まっていて、特に後半は見るたび聴くたびに感極まってしまう。

最近はグループの人数が多くなって、どうしても歌詞を細切れに歌うことになるのは仕方ないところだが、この歌では井上さんと松永さんが長めのソロパートを歌うところがあって聞きどころになっている。その2人に加えて段原さんも終盤にフェイクとコーラスで盛り上げるところがあって、そして最後には植村さんが温かく締めてくれるという完璧な展開だ。

遠藤さんにも少なく短いながらソロパートがあるのも個人的に嬉しい。井上さんから江端さんという近年の黄金のリレー(私が勝手に思っているだけ)はこの曲でも冒頭に登場している。

歌詞としては「続いていくSTORY」と「未来へ、さあ走り出せ!」の間くらいのテンションで、セットリストにも同じように組み込まれそうだ。激しさはなくても、ストレートに前向きな印象で今のJuice=Juiceの姿に重ねやすい。