この世のもの

見たものと考えたこと

映画「ソウルメイト」

結末に触れます。

予告編からぼんやりと想像していたものよりはだいぶ濃度が高く、集中して見ていないと話がわからなくなりそうだった。

今は連絡が取れない状態のハウンが書いていたとされるブログに沿って映画は進むので、現在との行き来はあるが、時系列が錯綜するようなことはないのでそんなに混乱はない。終盤は現在と過去の距離が縮まるし、切り替わりも頻繁になるので頑張って見ないとならない。

とにかくミソとハウンという主人公2人の相互への愛=執着が圧倒されるほど深く、そこにしか理由のない行動の数々には共感はできないが感心する。ハングルの一部を象ったピアスはかわいかったし、なかなか平仮名じゃあれはできないなと思った。もう1人の主役級がジヌと言う男性で、2人の人生に大きく関わる。ミソの方には男性の影はたくさんあるのだが、あまりはっきりとストーリーに登場してくることがない。顔を覚えるのが苦手なので助かるし、連続ドラマ的な分散をしなくて良かった。覚えるのが苦手と言えばミソとハウンは声だけ聞くとそんなに違いが分からなくて、手紙のやり取りが声で表現されるときにちょっと混乱した。私だけかもしれない。

少し台詞と音楽が多過ぎて忙しなく感じるところがあった。好悪だとは思うけれども、もう少し俳優の表情だったり動作だけをゆっくりみたかった気もする。
事実が転倒したり、衝撃的だったりする場面をあまり強調せずに前後と同じトーンで描いていく演出は好きだった。後から思い返すと不自然に思える行動や表情などもあるけれども、ミスリードさせる仕方はなかなか巧みだったと思う。幼少期の台詞の引用も気が利いていて美しかったし、そこで回想シーンを入れたりはしないところも良かった。

絵に対するミソの熱意というものが今ひとつ分からなかった。ソウルに行くことの方が大事だったのかもしれず、そういうのは大学生にはよくあることかもしれない。イーゼルを立てて写真を見て描くという謎課題での作品は面白かった。ハウンも同じく絵を描くことへの情熱のようなものは特に前半よくわからなかったけれども、親とか家の方が比重が高かったのかもしれない。ソウルに移ってからの制作にはそれらから開放された様子がキャンバス(紙か)のサイズから感じられた。それにしても、自分がシベリア鉄道に乗ってしまうあたりはミソへのかなり屈折した愛を感じた。本当は行っていないんでしょう?とは言わないまでも貰った葉書を使うところも。

ジヌについはほぼ良いところがないまま終わってしまった。ハウンは彼に執着する必要があったのだろうか。外見だろうか。洞窟の中での出来事をハウンが見ていたのだとすると、そこで関係が終わっていてもおかしくないし、ミソも彼をハウンから引き離そうとしてもよかった。そうしなかったのはジヌになにかの魅力ポイントがあるんだろうけれども、私にはわからなかった。特にセリフも印象に残らない彼だが、ハウンを評した「技術があるけど才能がない」っていうのは雑ながら辛辣な台詞で、でもそういう人を作家として成立させてしまうのが超写実(だっけか)というジャンルなのだとは思う。ソウルで技術を身につけていたらしいミソが絵の続きを描けているのも作品の性質ゆえであって、その点はジヌの言葉通りなのだが、しかしその技術のみで描いたものでも人の心を掴んだり、評価を得たりできるということまでは分かっていなかった。ミソが亡きハウンをプロデュースしていく過程は短いながらもわくわくするものであった。ところであのブログなのだが、結局全てミソが書いたものだったのか、途中まではハウンが書いていたのかが思考が追いつかず分からなかった。もう一度見れば分かるかも。

そのブログのタイトルが「夏の銀河」というもので、これも幼少期のやりとりに起因している。私は韓国人の人がどれくらい漢字を知っているものなのか知らないが、日常的にはほとんど使わないはずだ。名付けの時にはどうやっているのだろうか。名付け辞典とか使うのかしら。それほど勉強ができそうな子とは思えないミソがハウンの表記を「夏の銀河の、夏銀」と推測したのだが、意外と小学生でもしっかり漢字を学ぶんだろうか。実際にはウンは「銀」ではなく「誾」だという(日本語だとどちらもギン)。穏やかみたいな意味だそうだが、こんな字初めて見た。ちなみにミソは「微笑」でわかりやすい。

舞台は主に済州島。町、田舎、海、山が狭い中にまとまった島らしい素朴な風景が良かったし、その島からなかなか出られないハウンの雰囲気とも合っていた。「魔女2」での殺伐とした冬の済州島とはまた全然違ったようすが見られた。

顔の大写しが多い映画で、主役2人の表情で場面場面のトーンが決まっていた。キム・ダミさんは基本の表情が不適な笑みという感じなのだが、草臥れた表情も純粋な眼差しももちろんおどけた笑い顔もあって、引き出しの多い人だと思った。チョン・ソニさんは寂しそうな表情を見せる場面が多かったが、怒りだったり好意だったりも台詞なしで表現するところも多々あった。ダミさんよりも細かい変化で見せるタイプのようだが、個人的には品よく整った顔がとにかく美しくてずっと見ていたかった。2人とも30がらみと言う実年齢を思えない若々しさで高校生を演じているなど各年代相応の姿を見せていて、そのあたりは時間が切り替わる映画として見やすくもしてくれていた。

原作の方の映画は見たことがないのだが、Amazon primeなどで見てみようかと思う。予告編を見ると印象的なシーンはかなり原作から採用されているもののようだった。