この世のもの

見たものと考えたこと

「認知バイアス事典」からアイドル嗜好について考える

『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』(フォレスト出版)を読んだところ身につまされる部分があったのでちょっと考えてみたい。ちなみに全て「社会心理学的アプローチ」の冒頭部分に集中している。

 

単純接触効果:特別な反応をもたらさないような物事(刺激)に繰り返し接触すると、徐々にその刺激に対し好意的な感情を持つようになる現象

「相手のことを楽に近くすることができるという認知的な心地のよさを、その相手に対する好意と勘違いしてしまうというのが誤帰属であり、単純接触効果が生じる原因の1つと考えられている」

情報に接触する回数が増えるたび、その人たちに関する知識が増えていく。これはだんだん良いところが目に入ってきて、好きになってくるということもあるが、単純に認識しやすくなって楽ということもあるということだろう。推し以外のメンバー、つまり「特別な反応をもたらさないような」人について特に言えることだいうことだろう。

まあこれは誰しも身に覚えのありそうなことで、何度も映像や現場で情報に触れるうち、グループ全体が好きになっているのがこの単純接触効果の成せる業なのだとしたら、接触数の少ない人に「布教」したところでなかなか芳しい結果は得られないだろうなと思う。

感情移入ギャップ:対象に対して、怒りや好意など何らかの感情を持っていると、その感情を持たない視点から考えることが難しくなってしまうこと

「恋は盲目」と本文中にもあるうえ、「メンバー」などとあからさまな用語が使用されているように、これはもうアイドルファンのことを書いていると言っていいと思う。好きという感情を抜きにコンサートの感想を述べることなど無理である。ただ、それを自覚できているかどうかは大事で、好意をベースにして得た感想であるのにそれを他者も共感できるはずのものと信じ込んだり、挙句は他者が別途に好意を抱いている対象の評価を下げようとしたりという愚行に及ばないよう気をつけなくてはならない。

本書ではもう少し踏み込んだ話になっていて、他者への共感が経験に左右される、しかもその経験は今現在のものでないとならないということが述べられている。あえて引き寄せれば、何かにはまっている状態の人であれば、他者が何かについて語るその熱量に対して寛容であったり共感を示したりできる、とは考えられるかもしれない。

ハロー効果:どこか優れている(劣っている)点を見つけると、その他においても優れている(劣っている)と考えがちになる現象

Hello! Projectのハローではなくて後光のhaloである。同じ語源のハロ(ー)は気象用語や眼科用語にもあるので馴染みは深い。
最初に持っていた情報を支持する方向に物事を考えがち、つまり即断することが生存に有利なため存在する認知バイアスの一種のようで、その「最初に持っていた情報」というのは外見だったり肩書きだったりする。
これをアイドル嗜好に当てはめるのは案外難しい、なぜなら外見では何も測れないと思い知らされてばかりなので。ただ、「歌が上手」とか「ダンスメンバー」とか「しっかり者」とかいったメンバーやファンが作り上げたイメージが「ハロー」となっているケースはけっこうありそうである。それはメンバーの意外な一面だったり、優れたパフォーマンスだったりを見逃すことにつながってしまって勿体ない、ということはあるように思う。

 

以上。さまざまなバイアスにまみれて推しているということに自覚的になり、他者にあまり迷惑をかけないように過ごしていきたいものである。