この世のもの

見たものと考えたこと

STAGE VANGUARD『悪嬢転生』於COTTON CLUB

宮本佳林さん主演の音楽劇。

転生ものを読んだことがない上に、シンデレラも幼少期にディズニー映画を多分見た気がするくらいの認知だったので、理解が浅い。シン・ウルトラマンだけ見るような感じではないか。

#悪転ネタバレ

脚本・演出は太田善也さんで、「タイムリピート」と同じ人だ。

 

krage.hatenablog.com

 

怖くて読み返していないが、くどくどと文句を書いたような気がする。

感想としての一番は一人芝居として良くできていたということだ。佳林さんがとにかくよく喋る。セリフを多くしたというのは太田氏がパンフレットで述べている通りで、物語中にも触れられていた「モノローグ」を 多用して考えていること、起こったことを全て説明していく。演者のいない人物(母とか姉とか)との会話はそもそも表現されないので、落語みたいな中空へ向けて語りかけるような場面はなかった。そういう意味ではセリフは多いが会話はそれほどでもないと言えるかもしれない。トークライブのようだったし、濃度が高く見ごたえがあった。プロデューサーは「タイムリピート」での行間を読む演技というのを誉めていたけれども、今回に関しては感情も考えも全てセリフで説明されるので、表情からこちらが読み取る余地というのはほとんどなかった。

佳林さんの役柄は俳優の夢破れた芸能プロダクションのマネージャーで、確かJuice=Juiceのマネージャーも同年代の女性だったりしたと思うのでなかなかリアルに演じやすかったことと思う。疲れている人の演技が上手い。アドレナリン・ダメの落差つけるのとか見てみたい。基本的に説明は早口で、佳林さんにそれほど普段滑舌がいいイメージはないのだが、非常に明瞭で聞き取りやすい語り口だった。そういえばソーマも早口だったな。

イムリピート(って劇中でも言っていた)は同じものを何度も見せられる辛さが本質的にあるのだが、今回は二回目以降をかなりテンポ良く処理していてあまり苦しい感じはしなかった。SFだった「タイムリピート」とは違って原理的なものの説明はない。処刑されると転生してきたポイントに戻るという意味ではシンプルなルールだった。ゲーム的と言える。転生ものにこういう繰り返し要素があるものが多いのかどうかは知らない。最初のターンではイザベラ(宮本)はストーリーを全うすることで現実に戻れると考えていた。転生もののパターンとしてあると言っていたが、本当だろうか? それって面白いのかな。その割に収監されることや処刑されることに抵抗していたのもよくわからない。

さて、イザベラは現実に戻るべく色々と試すのだが、結局は処刑されることを繰り返す。結論が動かせないその経緯が矢継ぎ早に語られるのは面白かった。苦肉の策として騎士団に入って戦争を戦おうとする。シンデレラにこんな戦争設定出てこなかったはず、その際の男装はパンフレットにも載っている姿だ。殺陣もある、というか、殺陣をやりたくて作った設定なのだと思う。騎士団長になってかなりの間処刑を回避するのだが、結局は元々の騎士団長に見破られて処刑されてしまう。時間軸というよりも命を落とすことがループのポイントになっているようだ。だんだんとイザベラは現代に戻ることよりもこの世界で幸せになることを目指すようになる。騎士団長からシンデレラへの路線変更が強引だけれども面白かった。短い時間に良く詰め込んでいると言えると思う。

松原さんが頑張って演じている老女が実は妖精で、本性を表すと橋田さんになる。橋田さんは相変わらずかわいいのだが、研修生2人ともあんまり芝居のテンションが高くないのがじわじわくる。現代人っぽい。ともあれシンデレラと人違いの末にイザベラが王子との結婚へ向けて邁進する。王子役はシンデレラも演じる小関さんだ。

その小関さんが素晴らしかった。最後に見たのはいつだろうか、生で見たのは嗣永さんの卒業コンサートかもしれない。最近の画像を見て美しさに驚いてはいたものの、SNSの画像はなんというか加工がどうしてもかかってしまうので割り引いて考えていた、ところ、実際に美しかった。ちょっと憂いというか陰のようなものも帯びつつ、透き通った目と整った顔立ちは華やかだった。カントリーでは割と髪も短めで、全体のバランス上ボーイッシュな衣装だったり役回りだったりしていて、実際演劇女子部でも男役をしていた。今回はその男性役も一部ではこなしつつ、メインではシンデレラ役を務めていた。髪もかなり長くなっている。小関さんの心の美しさは皆の知るところであるのでシンデレラという役柄に納得感はまああるのだが、それだけでなく、屈託の無いように見えて実は…というキャラクターと今の小関さんの雰囲気がよく合っていた。シンデレラが実在感を持ったことで、イザベラの終盤の自問「幸せとは何か?」やその後の行動に裏付けができたと思うと同時に、観客としてはシンデレラに感情移入してしまう。主人公が誰かわからなくなるくらいだった。

処刑がループのポイントになるということで、イザベラはシンデレラにその座を譲り、やり直しを図る。シンプルな舞台装置に移される山岳の風景とその前で歌う佳林さんが美しかった。ここでイザベラはループからの脱出、現実へ回帰することに成功するのだが、その理屈はよく分からない。そもそもの転生の理屈もないのだから言っても始まらないのだが、主人公が改心したり心の成長を遂げたりすることで物語が解決するというのは、「神」の存在を前提にしないと理解できないように思う。私はそこには乗れないのだが、「良い人間になる」「他者の幸せを祈る」ということを真正面から描いていたのは志として嫌いではなかった。

転生ものというのは、現代人としての知識を活かして活躍するのがポイントだと不案内なりに思っていたのだが、そういう感じの話ではなかった。原作シンデレラとの相違点に戸惑ったり、話の展開を知っているが故の立ち回りとかもあまりないが、ループした時点で関係なくなってしまうからかもしれない。

今回はとにかく衣装がどれも素敵だった。紫、赤、黒、白とそれぞれの色のモノトーンで豪華なのにゴテゴテしていないのが良かった。シンデレラの村娘衣装もシックで小関さんに似合っていたし、妖精橋田さんのドラえもんみたいな雑なコスチュームも落差があって別物という感じだった。ネズミも鼠色ではなく黒で、耳も凝っていたのだが、パンフレットに写真がなく残念。

全体として、パンフレットでプロデューサーや脚本家が語っている通り、宮本佳林主演の音楽劇をやるとして、どんなことをしたいか、させたいかという動機が先にあって、物語は後にあるというのがはっきりしているものだった。終劇後にはショーケースということで、今回のシングル2曲が披露された。この前のソロライブの衣装だったかな。違うか? どちらの曲も歌い込まれて聴き心地がより良くなっている。 「ハウリング」の歌詞は劇の内容をどの程度把握して書かれたのだろうか。イザベラよりも深い闇というか病みというかを感じる。

「Stage Vanguard」は今後も続くようなことを佳林さんは仰っていたので、次は物語としても引き込まれるようなものを期待したいと思う。振り付けは佳林さんがしても良いんじゃないだろうか。