この世のもの

見たものと考えたこと

映画「マイ・ダディ」 

公開時、毎日新聞デジタル版1面と2面の間に広告が挟まれていて、繰り返し見せられたこととその感動強調のテイストからあまりいい印象がなかったのだが、中田乃愛さんのデジタル写真集が良かったので配信レンタルで観た。

時間軸をずらして重ねるような最初の展開は混乱を招く語り方になっているが、ひかりの病気と出生が物語の肝なので、重要な話を無駄なく提示していると言えるかもしれない。しかし、その肝の設定に無理があり、頭に疑問符もしくは突っ込みが浮かんだまま見ることになる。江津子は一男にどこまで本当のことを話していたのか分からないが、出会った経緯を考えれば、一男の頭に何らの疑いもなく今まで過ごしてきたと言うのはちょっと考えにくい。江津子が自分を騙して浮気をしていた相手の言っていたことを信じ続けていたのも同様に不自然であると思う。一男が医学的なデータによって打ちのめされるのはともかく、江津子はどうして180°考えが変わってしまったのだろう。

一男とひかりの終盤の会話劇は予想を裏切られるような台詞が多く、面白かった。一男が小栗旬演じる探偵からどれくらいの情報を得ていたのかわからないが(血液のサンプルがあるなら白血球の型も調べられないのかと思うが)、妻に裏切られたと感じているのは当然であろうし、それによる投げやりな気持ちを娘にさらけ出しているのが良かった。ひかりは抜群の記憶力を持っていて、自分の見たものしか信じない。その力強さが一男を動かしたのが痛快だった。

病院、病気の描写は何かしら問題ありそうだけれども、この映画によって骨髄バンク登録者が増えていたら、ある役割は果たしていると言えるのではないだろうか。